もしも透き通れば


 だからすっかり忘れていたんだ。相変わらずの毎日だったし、大して喜びもなかったけど、同じく不満もなかったから。

 でも、それは俺だけだったらしい。

 一緒に平凡な幸せを生きていると思ってたのは、俺だけだったらしい。

 それから半年経って、妻は緑色の紙を俺の前に差し出して、ごめんね、と言った。

 しばらくそれを見詰めていた。

 理解出来なくて戸惑った。だけど真剣なんだとその表情から判った。彼女がずっと考えに考えて、決断したのだと判った。

 これから時間をかけて話しても無駄なのか、と聞くと、そうねと悲しそうな顔をしていた。

 そんな顔を見たくなかった。

 だから、黙って名前を書いて判子を押した。



 妻は、元妻になった。




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