もしも透き通れば
がやがやと騒がしかった。
駅前の夕方は、学生町だけあって若者が溢れている。居酒屋の呼び込みとかカラオケの呼び込みとか、手の中に押し付けられていくそれらのチラシを何となしに眺める。
たまたま久しぶりに仕事が早く終わったのだ。
寄るところもなくて真っ直ぐ帰ってきた。一人の家にもようやく慣れたころだった。
商店街の焼き鳥屋の匂いにつられて顔を上げる。
そしたら、そこに見つけた。
「―――――――」
彼女が立っていた。視線を感じたのか、急に振り返って、目を見開いた。
俺は何て言えばいいのか、どうしたらいいのかが判らず、ただ戸惑って無言で立ちすくむ。
夕日と、匂いと、喧騒が遠ざかった。
今がいつなのか判らなくなった。懐かしい景色にいるようだった。
・・・どうして、彼女がそこに居るんだろう・・・。
じっと見ていると彼女が歩いてきた。
見たこともない顔をしていた。困った微笑、というか。懐かしいあの唇を開けて、静かに言った。
「・・・・会いに来たの。だけど」
息を吸い込んだ。
「もう誰か大切な人がいるならそう言って。そしたらこのまま帰るから」
俺は無言でじっと彼女を見下ろす。
わざわざ、ここまで来たんだな。俺に会えるかなんて保障はないのに。まだあの家に住んでるかなんて、判らないのに。