君は空、僕は風
私なりに頑張って走ったつもりだけど
渦中の人物は既にそこに立って待っていた。
「ごめんね?
待ったでしょ」
「僕の家の方が近いんだから当然じゃん。
早くお店入っちゃおう?
席はもう取ってあるから」
無意識なのか訓練されているのか。
当たり前のように導かれて
当たり前のように私は抹茶フラッペ片手に
寒くも暑くもないちょうどいいソファー席に座っていた。
お礼の一つでも言おうと顔を上げた先の眼差しは
二つ向かいの席にいた女性に向かっていた。
まつげの落とす影は優しくて
けれどその中に深い哀しみが混じって
その女性は彼に背を向けているから気付くことなんてない。
そしてその隣にいる男性はきっと彼が誰だかすら知らない。
ただ、彼と、私だけが
その空間の中で時間を切り取られたかのように
彼のホットコーヒーが冷めきって
私の抹茶フラッペがすっかり液状になったころ
私たちの時間は動き出した。
「・・・飲み物、ぬるくなっちゃったね。」
「・・・そうだね。買いなおしてくるよ」
「私はこのままでいいや。ハルくんは?」
「いこちゃんがそれでいいならいいよ。僕のはコーヒーだし」
また沈黙。
「いこちゃんさ、そういえば、報告したいことがあったんでしょ?」
「あぁ、その話ね・・・」
「僕さ、あの子と別れたんだ。」
じっと前を見て。
今にも泣き出しそうな顔で。
君は私にどうしてほしいというの。
私たちの物語はまだ始まってもいないのに。