君は空、僕は風
[たとえば君に黒縁眼鏡がよく似合うとして]

「彼」が別れた話を聞いたのは偶然のことだった。
3年付き合っていた彼女はうちの学祭にも来ていたし、誰もその幸せを疑ってなんていなかった。
もちろん私も彼とは友達として仲良くしていたし、デートした話をする度に少し気恥ずかしそうに笑う彼を祝福していた。
だから、まさかお昼ご飯の合間に聞くなんて思ってもみなかった。

「ねえ、依子、聞いてる?」

「あぁ、ごめんね。少し低血圧」

友達の声で我に帰る。
けれど、そのとき私、中村依子(ナカムラヨリコ)の頭の中には、後ろ髪の少し跳ねた面影のことしかなかった。
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