ハンナの足跡
 僕は後々の事を考慮して、しばらく話だけならしてやることにした。かと言って部屋に通すのは嫌なので、近くのファミレスへ行こうと誘った。女はすなおに従った。僕と彼女の歩く姿を他人が見たらどう思うだろうか。兄弟か、仕事の関係かか、いや大方、お気に入りの女の子を連れて歩くオジサンか。そんな臆病な事を考えながら、僕は女とファミレスまでの道を歩いた。僕のアパートの周りは静かだが、少し歩くと夜にこそ息づく街が存在する。そこを通り掛かったとき、女はこう言った。
「ここの通りに私の職場があります。貴方も今度遊びに来たらいいね。私より綺麗な女の子たくさん居ます。貴方なら皆喜ぶよ。」
 僕の勘はどうやら当たったようだ。きっぱりと僕は答えた。
「僕はそういう所が苦手でね。悪いけど全く行く気にならないんだよ。けど、君の話を聞くぐらいならいつでも出来るよ。君も大変な仕事をしているね。もっとも、そういう仕事が好きでしているって子が多いなんて話を聞かされた事もあるけど、どうなの、その辺は。」
 
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