ハンナの足跡
 少し可哀相な気もしたが、僕は嫌味な感じで尋ねてみた。すると女は特に僕の嫌味に対して反応するわけでもなく答えた。
「確かにそういう女の子は居るね、けどそうじゃない子も沢山居るよ。家を助けるために嫌でも働く子も居る。私もそう、国で家族が暮らせるように働く。好きでもない人に体を触られるのは嫌よ。けれど、仕方ない。家族のためね。その辺は間違って欲しくないね。」
 女はまた人懐っこい笑顔で僕を見た。僕は自分が恥ずかしくなった。なんて小さい奴なんだと思った。彼女の事情も知らないで、辱めようとした。僕だって決して立派な人間じゃない。僕はまるで空っぽの金庫のようだ。中には何も入っていないのに、見た目だけ頑丈そうで立派な金庫。僕もそんな人間の一人になってしまったのかと、悲しくなった。
「悪かった。すまない。君の事を勘違いしていたようだ。謝るよ。すまない。」
僕は女に対して初めて頭を下げた。いや、一人の人間に対して、僕はこの時頭を下げた。
「そんな事ないよ、貴方、いい人、私分かってる。大丈夫、もっと酷いこと、沢山沢山言われたの、あるよ。謝る貴方は大丈夫よ、大丈夫。」
 女は僕を気遣かって僕の右肩を優しく撫でた。
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