ハンナの足跡
 ショートケーキを一口、頬張った。甘い味が、舌一杯に優しく染み込んでいった。僕は久しぶりに食べたケーキに驚いた。こんなに美味しいものだったかと。僕は特に甘いものが好きだというわけでもないのに。ケーキの一番良い場所に、ちょこんと載っている赤い小さな苺。僕はそれを見て、ハンナを思い出した。下のケーキを全部食べてしまってから、皿の上に、苺だけを残した。そして、最後の一口で、苺を味わった。甘酸っぱい匂い。僕はいつまでも、苺を口の中で弄んだ。やっと飲み込む気になって、ふと店の時計に目をやると、もう二時間を過ぎていた。僕は苺を飲み込んだ。会計を済ませ、店を出た。歩きながら、西島に連絡を取った。
< 139 / 200 >

この作品をシェア

pagetop