ハンナの足跡

　結婚式は、盛大に行われた。ハンナは真っ白なドレスを着て、僕はその姿に天使を見たような気になった。二人は皆に祝福された。この世のありとあらゆる幸せが、そこに集約されているかのようだった。
　新婚旅行へ出る前に、二人は籍を入れに行った。社長がどうしてもと言うので、僕も二人について行った。
　ハンナはきょとんとした顔で、手続きが済むのを待っていた。
　社長が喜び勇んで、ハンナに言った。
「さあ、ハンナ。今日からお前は、西島佳奈になるんだよ。」
「なにそれ、変な名前。私、ハンナよ。」
　僕は笑った。
「いきなり佳奈って言われてもなあ。社長、無理がありますよ、さすがに。」
「そうか？だけど、一応説明しておかないとな。俺、悪者になっちゃうだろ。それに、これから母親になって、西島佳奈って名前を使う機会も増えるだろうしな。」
「確かにそうですね。ハンナ、お医者さんに行くときなんか、西島佳奈さんって呼ばれるから、覚えておくんだよ。いいね。」
「うん。わかった。」
「ったく、お兄さんの言うことなら、素直に聞くんだからよ。」
　社長はすっかり父親の顔になっていた。