ハンナの足跡
 ハンナが職場で仲の良い、朱美という女は、僕が嫌いなタイプの女だ。男に抱かれること無しでは生きていけない女。これは僕の見解だが、こういうタイプの人間は自分の欲望に忠実過ぎるのだ。食欲に忠実になれば、肥満体になる。性欲に忠実になれば、こういうタイプの人間になるのだ。自分では制御できない程の、魔物を持って生まれた人間は、無意識に動機を探そうとする。魔物を解き放つための動機を。それが社会にとっては悪性の腫瘍になり、見つけられた所で、切除されるのだ。僕はそんな癌細胞になるような人間とは関わりたくないが、かと言って、僕自身が全くそうではないとは言い切れない所もある。自分で気付いていないだけかもしれない。ともあれ、朱美は幸い、自分で魔物に気付いて、上手く生かせる場所を見つけたわけだ。世の中、朱美のような人間ばかりだと考えると吐き気がするので、考えるのを止めた。
 もう一人、ハンナが僕の家へよく連れてくるのは、朋子だ。朋子もハンナと同じではないが、似たような境遇の人間である。朋子の父親が残した多額の借金を返すため、身体を張っている。彼女の母親は、娘がどんな仕事をしているのか知っているが、知らぬ顔をしているという。朋子はそれが愛情だと話していたが、僕はそれは違うと感じた。母親も働いて、借金を返しているという。僕は朋子が家族の話をしたとき、何て言葉を掛けたらいいのか、分からなくなってしまっていた。
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