ハンナの足跡
「だってさあ、朋子、さっき、目を開けたんだよ、ハンナは、」
「あんた…」
「俺が、俺が握ってやれば、ハンナ、戻って、来るんだよ、ハンナが、死ぬわけ、ないんだよ、そんなこと、俺は、認め、ない、」
「…」
 朋子が声を押し殺して泣いていた。ハンナの手を握っている僕の手を、温かい朋子の手が包んだ。僕は、朋子の手の温かさにハッとして、ハンナの手の冷たさに初めて気付いた。その瞬間、僕は事実を知ったのだ。彼女が死んだという事実を。もう、認めざるを得なかった。
 僕は朋子の胸に顔を埋めて大泣きした。大きな悲しみが僕を襲った。絶望が身を包んだ。僕は朋子にしがみついて、自分を支えていた。朋子はしっかりと、僕を抱いてくれていた。
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