ハンナの足跡
 そんな僕の様子を見て、先輩の紺野さんは目を細めていた。
「お前らしいよな、その行動。俺なら、うわっ、あっち行けで終わりだよ。」
 紺野さんはとても穏やかで、責任感のある人だ。面倒見も良い人で、彼の奥さんの手料理を何度かご馳走になったこともある。結婚するなら、紺野さんの奥さんのような人が理想だと僕は思っている。
「ところでお前、彼女は出来たのか。最近なんか楽しそうだから、出来たのかと思ってたんだけどさ。どうなのよ。」
「いや、彼女なんて出来ませんよ。ただ、その、妹が出来ました。」
「は?妹?お前、兄妹居ないって言ってなかったか。ご両親も小さいとき亡くしたっていう話だろ。あれか、今頃になって分かったってやつか。」
「いえ、ふとした事がきっかけで、仲良くなった女の子が、僕を兄みたいに慕ってくれてるだけですよ。血の繋がりなんて全く無いんですけどね。」
「そうか。まあ、詳しくは聞かないけど、お前は何ていうか、孤独背負わされて歩いてきたような所があるもんな。人との繋がりなんて、何がきっかけになるか分からんから、お前が良いと思うなら、大事にしたらいいよ。」
「ありがとうございます。」
「いや、嬉しいよ、なんか。お前が幸せそうにしてんのは。」
紺野さんは僕を息子のように思ってくれている。彼の本当の息子は、彼を嫌って今は話もしないという。紺野さんと話していると、会ったことのない両親のことを思う。どんな人だったのだろうと。自分の父親は、紺野さんのような人だったのだろうかと、いつも決まって思い描いた。
< 19 / 200 >

この作品をシェア

pagetop