ハンナの足跡
 僕は今まで、一人で居ることが寂しいだなんて思ったことは一度もない。いつも、一人になれるように努めていたような気がする。でなければ、僕には心休まるときなんて、一時もなかった。毎日が息詰まって、息詰まって、発狂しそうになるのを僕は必死でこらえた。小学生まで、僕にはどんな風に過ごしていたのか、記憶がない。あまりに短調で、無味乾燥としていて、覚えていたいことなんて、一つもなかったからかもしれない。嫌な記憶を忘れられるなんて、人間の脳は都合がいい。いちいち覚えていたら、生きていけないから。こんな僕にも、小学生のとき、初めて本音で話せる友人が出来た。一人は僕と同じような問題を抱えていて、もう一人は変わり者好きな奴だった。僕ら三人は、クラスの中ではどのグループにも属さず、浮いた存在だった。何かの行事で三人組のグループを作らなければならず、そのときに調度余っていた三人が一緒になった。それからの付き合いだ。彼らは、信用できるとまでは行かなかったけれど、家に居る人間達よりはマシだった。彼らと他愛もない話をしていると、いろいろな事を忘れられた。笑って日をやり過ごせた。それからは少しずつ、周りの人間達や社会と折り合いを付けられるようになったと思う。僕はラッキーだった。
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