ハンナの足跡
 ハンナは、座った目で西島に近付いて話しかけた。
「あなた、弟。私、お姉さんね。」
「え、でも俺の方が明らかに年上でしょ、弟は勘弁してよ、ハンナ。」
「ダメ、弟ね。私、お姉さん。」
「結構頑固だなあ、ハンナ。じゃあさ、弟でいいから、俺の事はコウスケって呼んで。幸せを助けると書いて”幸助”だから。ね。」
「私、難しいことわからないね。あなた、今日からルイと呼ぶ。」
「ええ!?やだよ、俺!」
 ハンナが突然わけの分からない名前を西島に付けたので、皆大笑いした。
「ルイは、私の本当の弟の名前よ。私とルイはとても仲良し。いい名前ね。」
「そりゃあ、いい名前だよ、ハンナ。でも、俺はニシジマコウスケっていうの。コウスケって呼んで欲しいなあ。」
「わがままな弟だねえ。仕方ない、私、お姉さんだから、ちゃんとコウスケって呼ぶよ。コウスケ。」
「やった!すげえ嬉しい!」
 ハンナのおかげで、朱美と朋子も緊張が解れたようで、いつもの二人に戻った。
「コウスケってえ、意外にバカっぽい感じだよねえ。」
 朱美はゲラゲラ笑いながら、西島に向かっていつもの調子で絡んだ。
「朱美ちゃん、そんなにくっつかないでよ。俺がいい体してるからって。」
「あはは、おもしろーい、コウスケ。最高。」
「だから、コウスケって呼んでいいのは、ハンナだけだから、ハンナだけ。」
 朱美はその後も、西島に猛アタックを続け、ハンナと一緒に酒を浴び、そして、あっけなく酔い潰れて、部屋の隅で、いびきを掻きながら寝てしまった。僕にはその姿は中年の男にしか見えなかった。
「寝ちゃったよ、朱美ちゃん。嵐のような女だな。」
 西島は豪快に笑った。
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