ハンナの足跡
 落ち着いたところで、西島は朋子に話しかけた。
「朋子ちゃんは、朱美ちゃんとは違って落ち着いてるよね。見習ったらいいんだよ、朱美ちゃん。なあ。」
 西島はふざけて朱美の方を向いてつぶやいた。もちろん反応する訳もない。
「そうかなあ、私も朱美みたいに、はしゃいでみたいんだ、本当は。」
「そうなの。」
「私ね、いつも落ち着いてるって言われるから、そういう自分が何か嫌でさ。」
「俺は落ち着きのある女の人、好きだけど。」
「あら、西島さんに言われると嬉しいな。」
 朋子は赤くなった。
「赤くなっちゃって、朋子ちゃん、可愛いなあ。」
「そんなこと言って、西島さんはハンナが好きなんでしょ。わかってるんだから、私。すっごくわかりやすいんだもん、西島さんて。」
「あれ、バレてた?」
「でも、ハンナはそうでもないのかなあ。ねえ、ハンナ、飲んでばっかりいないで、話そうよ、ほら、ハンナ。」
 朋子は母親みたいにハンナを呼んだ。
「私、コウスケは弟と思ってる。」
「いきなり振られたのか、俺?」
「そんなことないよ、男と女なんて、何がきっかけで恋に落ちるか分かんないのよ、最初はそう思ってても、西島さんカッコいいんだから、あきらめることないよ。」
「ありがとう、朋子ちゃん、優しいなあ。俺のお母さんみたい。」
 西島は朋子に泣きついた。朋子は照れた。ハンナはそれを見てゲラゲラ大笑いをして、僕の方に抱きついてきた。こいつは僕を、お父さんだと思ってもいるんじゃないかと疑った。
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