ハンナの足跡

「ハンナ、お前、飲みすぎだぞ。何本空ける気だよ。すっごいな。」
「お兄ちゃんも皆も、飲まないんだもん。ハンナだけ飲んでる。」
「違うよハンナ、お前の飲む量が普通じゃないの。」
「そんなことないよ、お兄ちゃん。」
　ハンナは僕に対しては安心し切っているようで、僕には無防備だ。無防備過ぎて、僕は時々、女としてハンナを見てしまう自分に罪の意識を感じた。僕にからんでくるハンナを見て、西島は羨ましそうな顔をした。
「ねえ、先輩、本当はハンナと付き合ってるんじゃないですか？俺に遠慮することなんかないですよ。本当のこと言ってくれていいっすから。」
　西島が気を遣って僕にそう言った。
「だから、西島、そういうのは全然無いんだって。」
「だって、どう見たって、仲良すぎるじゃないっすか。長年付き合ってる恋人同士みたいですもん。俺、嫉妬しちゃいますよ。えーん、お母さん。」
　西島はまた朋子に泣きついた。
「私は西島さんのお母さんじゃありません。」
　朋子に拒否されて、西島は親に見捨てられた子供のような顔をした。
「コウスケ、私、お兄ちゃんとは、セックスしていないよ。」
　ハンナは突然起き上がって西島の勝手な想像を否定し始めた。
「お兄ちゃんの事は、すごく信頼してる。大好き。だけど、男の人として見ている訳じゃない。」
「じゃあ、先輩は、ハンナにとって都合のいい男なわけか？」
　西島はやや切れ気味になってしまった。
「違うよ、都合がいいとかそういうことじゃない！」
　ハンナも一緒になってテンションが上がってしまったので、僕は二人を止めた。