ハンナの足跡

三人が働いている店の横にある狭い路地を通ってしばらく歩くと、彼女達の部屋があるビルについた。店の社長が持っているビルの３階を貸してもらっているそうだ。家賃や光熱費も払ってくれているという。彼女達が逃げられないということを知っているからだと僕は思った。
　彼女達がビルの階段を上がって行き、３階の部屋の明かりが点いた。広そうな部屋だ。僕と西島は三人の部屋を見上げていた。窓が開いて、彼女達は３階から僕らに手を振った。僕らは手を振り返した。僕と西島は安心して、部屋の前を去った。
　西島と僕は、二人だけで飲み明かしたい気分になって、彼女達の働いている店がある華やいだ路地を後にし、僕のアパートに程近い、小さな居酒屋へ入った。店は常連客などで既に混み合っていた。僕らは隅の方の空いている席へ座った。西島はタバコに火を点けた。僕は西島の体を心配したが、今日はいいんだと言って、僕にも勧めた。僕は西島のタバコを快く受けた。西島と試合をして負けた日の夜も、僕はこうして西島と二人で飲みに行った。負けたことは確かに悔しかったが、心地良い気分だった事を覚えている。西島になら負けてもいいと思えたからかもしれない。