ハンナの足跡
「起きて、ねえ、起きて。」
 朋子の声で、僕は気が付いた。眠たい目で朋子を見た。
「朱美が、目を開いたの。朱美、目を覚ましたよ。」
 僕は頭と体を無理やり起こして、朱美の方を見た。朱美はニヤッとして、僕を見て小さな声を出した。
「やだ、来てくれてたの。ありがと。…まさか、イケメンも一緒?」
 いつもの朱美の調子だった。
「ああ、イケメンも来てるよ。」
「…何処にいんのよ、居ないじゃん。」
「ハンナと一緒に、廊下に居るよ。」
「なあーんだ、ちぇっ。」
 朱美はふてくされて、目を閉じた。朋子が笑いながら、朱美の頭を撫でた。
「朱美、良かったよ、目、覚ましてくれて。良かったあ。」
 朋子はここへ来てから、ようやく涙を流せた。緊張が解けたんだろう。涙を流しながら笑って朋子に抱きついた。
「朋子…朋子…」
 朱美は何回も朋子の名を言って、それに応えた。
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