ハンナの足跡
 ドアに付いた小さな窓を覗くと、万華鏡の世界が見えた。髪の長い、背の高い、痩せた女だった。城の主がドアの側へ来たことに気付いているのか、疲れ果ててしまっているのか、項垂れて、両手を胸の辺りに置いて、立っていた。こんな状態のまま、ほうっておくのも、城の主としては情けのないことだと、僕はドアを開けた。ドアが開いた瞬間、驚くような速さと身のこなしで、女は部屋へスルッと入ってしまった。女は僕の手からドアノブを奪い、自分で閉めた。そして、僕を見上げた。
 「私、追われている、名前はハンナ、私、助けて欲しい、少しの間でいいから、ここへ置いて欲しい、お願い、お願いします、」
ドアを開けた瞬間に、僕は異次元の世界へ足を踏み入れたんだ。今までの人生とは全く別の、異次元の扉を、確かに僕はこのとき、開けたんだ。
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