ハンナの足跡
朋子
 朱美の一件以来、随分と長い間、ハンナ達には会う機会がなかった。僕は仕事に追われ、彼女達もそうだろう。店を騒がせた分、働いて返すのが恩だ。少なくとも彼女達ならそう考える。それに、彼女達にはそれぞれに背負うものがある。西島の方は、大事な試合がある。ハンナの事ばかり追いかけてもいられない。僕らはしばらくの間、それぞれの生活を淡々とこなしていた。
 暑い季節が終わろうとしていた。青い葉は、徐々に色を失っていった。風が冷たくなり始め、夜は冷え込むようになった。樹や花は休息の季節を持っている。僕ら人間が失った季節を持っている。季節の変わり目のせいか、僕はかなり感傷的な男になってしまっていた。
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