ハンナの足跡
 ハンナは、突然僕の前に現れる。僕の小さな城の前に、捨て猫のように待っている。猫は人に懐くのではなくて、家に懐くのだという。僕はそうは思わない。懐いている人が住んでいる家でなければ寄るはずがない。突然現れるのだから、突然現れなくなることも可能性としては十分あるわけだが。
 ハンナと知り合ってから、もう半年が経とうというのに、僕らは連絡先を教えあったりはしていなかった。いつもハンナから現れて、それで関係が成り立っていた。僕はそんな関係を好んだ。連絡先を知っていたら、連絡を待ってしまう。待っても現れない者に、焦燥感を抱く。僕は無用にそんな要らぬ感情を抱かされるのが嫌いだ。道具は道具であって、道具に使われるべきじゃない。道具なんて、多少馬鹿にして扱うのが、良いのだ。それがなければ生きられないなどと、考えないことだ。何より、ハンナが簡単な手段を使わずに、僕に会いに来てくれることが嬉しかった。今度は僕が会いに行こうかと思っていたときだった。
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