ハンナの足跡
 ハンナの住んでいる部屋へ上がる。彼女達の部屋のドアはいつも開けっぱなしになっている。覗くと、そこに彼女は居なかった。朋子が一人、部屋に居た。僕は声を掛けた。
「よう、朋子。ハンナは?」
 朋子は体調がよくないようで、青ざめた顔をしていた。
「…ハンナは仕事に出てるよ。朱美も。」
「朋子、顔色よくないな。具合悪いのか。」
「うん。貧血気味で。あたし貧血持ちでさ。いつものことだよ。」
「…上がってもいい?」
 僕がそう尋ねると、朋子は少し間を置いて答えた。
「どうぞ。ドアは開けたままにしておいてね。」
「ああ。これ、なんでいつも開いてるの?」
「開いている方が安心するのよ、皆。寝るときは閉めるけどさ。」
「そうなの。女の子ってそういうもんなのかね。」
「何それ、あはは、今ちょっとオヤジくさかった。」
「何だよ朋子、ひでえなあ。」
 朋子は少し顔色が良くなった。
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