ハンナの足跡
 会場が薄暗くなった。相手選手の名が呼ばれる。西島と同じ日本人らしい。相手が日本人なら、楽勝だと僕は思った。続いて、西島の名が呼ばれた。西島は男前なせいもあり、女性ファンが多く会場に集まっていた。まだ名も売れていない選手にしては、集客に一役買っているようだ。西島の本意ではないだろうが、女好きにとっては一つの楽しみにもなっているだろう。西島が勇ましくリングに向かっていく途中で、女の客達が騒いだ。彼は快くそれに応えていた。あいつらしいなと僕は思った。華やかな雰囲気の似合う男、それが西島だった。僕の隣に座っていたハンナが興奮して立ち上がった。
「コウスケーーー!!ファイトよーー!!」
 その日の会場で一番の美人が、誰よりも大きな声で、西島に声援を送った。会場内が多少、ざわめいた。西島も、ハンナに気が付いたようで、軽くガッツポーズをして応えた。そのままリングへ上がって行った。
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