ハンナの足跡
 ハンナは突然キスをされて、銅像のように固まってしまった。
「ハンナ、俺、ハンナが好きだよ。」
 僕は恥ずかしくて見ていられない気持ちと、西島の勇気に嬉しい気持ちで、ハンナがどう応えるのか、見ていた。すると、高雄さんが堪らずちょっかいを入れた。
「おい、西島。よくこんな大衆の面前で、そんなこと出来るもんだよ。大した度胸だ。でもよ、もう試合、終わっちまったんだから、外でやったらどうなの?」
 西島は、高雄さんの言葉が聞こえているのか、聞こえていないふりをしているのか、構わずハンナに言葉を続けた。
「ハンナ、俺は、君が側に居たら、もっと頑張れる気がするんだ。だから、俺と付き合ってほしい。」
 ハンナは困った顔をした。
「俺が嫌いなら、そう言ってくれていいんだよ。諦められるかどうかは、自信ないけどさ。」
 西島が照れ隠しに微笑んだ。数秒の沈黙の後、ハンナがやっと口を開いた。
「コウスケ、今すぐ、返事、出来ない。少し、待って。」
 西島は断られると思って不安だったのか、固く目をつぶっていたのを、恐る恐る目を開けて、ハンナの顔を見た。困った表情ではなく、いつもの明るいハンナがそこに居た。
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