ハンナの足跡
 引っ越してから初めての休日にあんな事件があったが、僕は普段通りの生活を続けていた。遅刻もせずに、仕事へ行き、アパートへ帰って、寝た。次の日からは忙しい日が続き、事件のことは記憶の何処かへ置き去りにされて行った。
 僕は大学を卒業した後、警察官になった。今は派出所勤務だ。言葉通りのお巡りさんである。高校の頃からボクシングをしていて、今でも仕事帰りや暇を見て、馴染みのジムに通っている。僕の希望としては、そちらの方でプロになりたかったのだが、ジムの後輩、西島に練習試合でKO負けしてからは、きっぱり諦めた。人には向き不向きがある。そして僕としては、僕がその道で最強でなければプロになる意味がなかったからだ。でも、そんな事は負け惜しみで、西島の才能に完敗しただけだ。男の目から見て、西島はいい男だ。
 
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