ハンナの足跡
雪解け
 ハンナは部屋に入るなり、座ってからずっと黙ったままだった。
「ハンナ、西島のことを相談しに来たんじゃなかったけ?」
「そう、私、相談しに来た、コウスケの事…」
 あいかわらず黙ったままで、僕はハンナがその気になるまで、そっとして置いた。
「…ねえ、お兄ちゃん、私、お兄ちゃんのこと、好き。」
 やっと話す気になったかと、ほっとした。
「俺も、ハンナのことは好きだよ。」
「けどね、コウスケの事も好きなの。」
「俺の事が好きだって事とは、また別の好きだろ?」
「私、よく分からないよ。」
「そんなにさ、深く考えることないって。」
「…」
「ハンナは素直だろ。そのまま素直に考えてみればいいんだよ。」
「素直って、正直のこと?」
「そう。真っ直ぐな気持ちだよ。他人に遠慮したりしない気持ちだ。」
 ハンナはまた黙ってしまった。
< 85 / 200 >

この作品をシェア

pagetop