ハンナの足跡

　仕事帰りに、ジムに顔を出してみると、西島が居た。練習メニューを一通りこなした後、水を浴びたような格好で、椅子に腰掛け、汗が流れるのに身体を任せていた。僕が来たことに気がつくと、ニヤッとして腕を軽く上げた。
　「おっす、おひさしぶりです。」
　西島は、人懐っこい笑顔で僕を見た。僕はジムを一通り見渡して、挨拶を済ませた後、西島の隣に座り込んだ。
　「がんばってるね、チャンピオン。やっぱり、かっこいいよなあ。」
　少し照れ笑いをして、横を向いた。首から肩、そして腕へと流れる筋肉が美しい。腹は引き締まっていて、表面は陶器のように滑らかで、内側は鉄板でも入っているかのように堅かった。
　「やだなあ、まだチャンピオンじゃないですよ。まあ、絶対なりますけどね。やっぱりなりたいですよ、チャンピオン。」
　「そりゃあそうだろ。なんせこの俺にＫＯ勝ちしちゃったんだからさ。お前に負けて、俺はプロを諦めたんだぞ、なってもらわなきゃ困るって。」
　西島と他愛ない話をしていると、仕事の疲れも吹き飛んでいった。