ハンナの足跡
 冷静にならなければならないのに、僕の身体の底から怒りが膨れ上がってきて、僕はそれを必死で堪えていた。何もかも壊してしまいたい気持ちで一杯だった。そんな僕を見て、ハンナは泣くのを止めた。
「お兄ちゃん…。ごめんね、苦しくさせて。」
「…ハンナは悪くない。」
 ハンナの声を聞いて、少し冷静さを取り戻せた。
「俺こそ、ごめん。取り乱して。もう一度、冷静に考えてみよう。」
「うん。…普通の女の子に戻りたいっていうの、私の、本当の夢よ。けど、叶わないのは分かっている。よく分かっている。コウスケの事、好きなのも、本当よ。でも、家族も大事。放っておけない。」
「そうだな。どうしような。」
「私、コウスケと付き合いたい…仕事も続けたい。」
 やっとハンナの口から、本音が聞けた。僕はほっとした。
「やっと言ってくれたな。お前がどうしたいのか。」
「え?」
「コウスケと付き合って、仕事も続けろ、ハンナ。」
「けど…。コウスケは嫌がるよ、私の仕事。」
「西島がそんなことでお前を嫌いになるようなら、その程度だったって事だよ。それならそれで、いいじゃないか。俺はお前に我慢させたくないんだ。」
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