何度でもキミに初恋を
最近、すずは口を開けば

『柚樹先輩』

ばかり言う。



俺はその噂の柚樹先輩とやらを知らないが、クラスの女子たちの話では、学校のプリンスらしい。


なにがプリンスだよ。


俺は訳もなくイライラする。


すずによれば、その柚樹先輩ってやつは、重い荷物をさらっと持ったり、ドアを開けて女の子を先に通したりするばかりでなく、女の子が髪型を変えたら、
『似合うね』なんてことを言ったりするらしい。


『つまりフェミニンなやつだな』


俺は呟きながら、教室を出る。


隣のクラスの女子に呼び出されたからだ。


高校に入ってから、こういうことが何回もあって、俺はそのたびに憂鬱になる。


靴箱のところで、顔を赤くしたその子に
『ごめん…すきな人がいるから。』

と答えると、その子は今にも泣き出しそうな顔で、
『わかった。』
と走って去っていく。



今のはいいほうで、これまでには『なんで!?』と泣きながら迫られたり、『すきな人って誰?』と問い詰められたこともあった。


『すきな人がいるから』
という断りかたを教えてくれたのは篤史で、これが一番納得してもらえる理由なんだとか。




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