それでもキミをあきらめない



廊下で繰り広げられるそんなやりとりを、お芝居でも見るように周囲の生徒たちが覗き見してる。


星野彗がどこの誰だかわからない女を追いかけているらしい。

そんな噂が、すでに一部で広がり始めていた。


「なぁレオ、ホントに知らねぇのかよ。奈央ちゃんのこと」

「……知らねぇ」

「なんだよ、不機嫌だな」


ぼんやり廊下に視線を送っていると、高槻くんがちらっとこちらを向いて、わたしの頬は突然火が付いたように熱くなった。

あわてて顔を逸らす。


目が合った嬉しさと、秘密を知られているという恥ずかしさで、心臓がばくばくと落ち着かない。


学年1のアイドル男子が、よりにもよってわたしなんかを捜しているなんて。

そんなおとぎ話のような話を誰も信じるわけがないし、わたし自身、誰にも言うつもりはない。


星野くんには悪いけど、あの姿の奈央はもう現れない。


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