それでもキミをあきらめない



1日の終わりを感じる時間帯が、なぜかいつも以上に物悲しく感じられる。


高槻くんと過ごした時間が、あまりにも濃かったせいかもしれない。


「弟の面倒見て、料理までするなんて、高槻くん、偉いね」


思ったままを口にすると、彼はちらっとわたしを見下ろして、それから小さく、

まるで恥じ入るみたいに頬を持ち上げた。


笑っているような、悲しんでいるような表情に、わたしははっとする。



「昔は全然ダメだったんだ」


「え……?」


「遼を、可愛いと思えなかった」


放られた声には棘も重みもなく、風化した気持ちの残骸をただ声に載せているだけ、という感じだった。


思いつめた過去の出来事を、高槻くんは、わたしに話そうとしてくれている。



< 143 / 298 >

この作品をシェア

pagetop