それでもキミをあきらめない
「親の目がぜんぶ弟に行って、うまくいかない時期があったんだ」
買い物帰りのお母さんに連れられた小さな男の子を目で追いながら、高槻くんは静かに語った。
遼くんが生まれたばかりの頃、小学生だった高槻くんは、
急に現れた弟の存在をどうしても受け入れられなかった。
「お兄ちゃんになったんだぞとか、弟の面倒を見てやれとか、親に言われて笑っててもさ、内心、なんで俺がって思ってた」
両親の目が弟にばかり注がれることが、小学生だった高槻くんにとっては耐え難いことで。
マイナスの気持ちは、彼の穏やかだった生活を奪った。
「学校でも、家でも、本当にすべてがうまくいかなくて、全部嫌で、消えてなくなりたいって思ってた」
「高槻くんが……?」
夕暮れに染まる歩道を歩きながら隣を見上げる。
彼は遠くの空を染めるオレンジの光を見つめたまま、表情を変えなかった。