それでもキミをあきらめない


「ひっ、なにこれ、こわっ」

 
メモを見て固まっている翔馬から、あわててそれをひったくる。


「な、なんでもないし」
 

引きつった顔でわたしをしばらく見つめてから、兄は気を取り直すように咳払いをした。 


「だから……なんだっけ。えーと、ほら、おまえはさ、本来、根アカな人間なんだよ(たぶん)」

「根アカ?」

「そうそう。根はすっげー明るいはずなんだって。昔はいじめられるどころか、いじめっ子をぶっ倒してクラスの人気者だったじゃん」
 

それは遠い遠い、過去の記憶だ。
 
おじいさんが山へ芝刈りに、おばあさんが川でどんぶらこレベルのむかしばなし。

わたしは唇を噛んだ。


「小4くらいまでは確かに元気ハツラツ少女だったのにさ、どうしちゃったんだよお前」

「全部、兄ちゃんの、せいじゃんか」
 

怒りで声がふるえる。
 

記憶の中で、わたしの周りにいた友達たちが、ひとりずつ、影も残さず消えていく。
 
ひとりきりになったわたしが、声の限りに叫んでも、誰にも届かない。


まっしろな世界。

まっしろな闇。


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