それでもキミをあきらめない
「まあその、俺も多少は悪かったと思ってるって」
「多少?」
妹の人生を180度変えてしまったというのに、ささいなこと、ぐらいにしか思っていない翔馬が腹立たしい。
本当なら口も利きたくないのに、いつも兄という権限を使ってずかずかとわたしの心に踏み込んでくる。
「もういい。放っておいてよ」
手の中のメモをにぎりしめると、翔馬がため息をついた。
「だからぁ、そうやってこもるなよ。母さんには心配かけないって約束しただろ。とりあえず何があったか言ってみ?」
ひとたび真剣な表情を見せると、兄はがらりと雰囲気が変わる。
明るい髪色に、おしゃれなんだかだらしないんだか分からない格好をしているせいで一見チャラ男に見えるけれど、
もともとの顔立ちが整っているからか、表情を引きしめただけで誠実そうな空気をかもしだすのだ。
「ひとりで抱えても苦しいだけで解決しねえぞ。年上の功で力になってやれるかもしれないじゃん」
「う……」
張りつめたものが緩む。
とげが生えた心をやさしく撫でられたような気がして、また涙がにじんだ。
だけど、兄に高槻くんのことを話したのは、やっぱり間違いだった。