それでもキミをあきらめない


「とりあえず、下りてきて飯食え」

 
ひらりと右手を振って、真面目だか不真面目なんだかわからない兄は部屋を出ていった。
 
散らかった部屋の真ん中で、転がった枕が寂しそうにわたしを見上げている。


「可愛くなって……ふくしゅう」
 

にぎりしめていたメモをゆっくり広げると、インクの黒が目に飛び込んでくる。
 

これまで塗りつぶしてきた、真っ黒な心の残骸だ。
 
棚に行儀よくならんだ可愛いぬいぐるみたちに、浄化してほしくて預けていた黒い感情。



「この気持ちが、晴れるの……?」



『あんなブスに告るなんて』 


 
馬鹿にしたような笑い声が頭のなかをぐるぐる回る。
 
可愛くなれば、高槻くんはわたしにひどいことしたって、後悔するのかな。
 

フクシュウ……復讐。
 

わたしをまっすぐ見つめてきた彼の顔がよみがえって、また悲しくなる。


「ひどいよ……」
 

枯れたはずの涙が、つうと頬をつたった。


「復讐なんて、わたしには無理だよ……」
 

足元の枕を拾い上げ、顔を埋める。
 

心の中の真っ黒を吐きだしたせいか、いまはただ、悲しくてたまらなかった。


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