それでもキミをあきらめない

「奈央、コーヒー淹れてくれる？」
　

キッチンでフライパンを振りながら、お母さんが振り返る。

わたしは返事をして３つ分のマグカップにインスタントコーヒーの粉を落とした。
　
テレビのお天気コーナーでは、気象予報士のお姉さんが『今月いっぱいは暑さが残る』と晴れやかに笑ってる。
　
父親はわたしが中学生の頃から単身赴任中で、会うのは年に何回かだけだ。
　
だから、お母さんはお兄ちゃんのことを少なからず頼りにしている。
　
あんなバカ兄でも、お母さんにとっては頼もしい息子に、成長したのだ。


「やっべー１限、間に合わねえ」
　

うるさい足音を立ててダイニングに来た翔馬が、立ったままテーブルのロールパンをつかむ。


「んじゃ行ってくる」
　

パンにかぶりつきながらドアを出て行く背中に、あわてて声をかけた。