それでもキミをあきらめない
兄は、いつ爆発するかわからない爆弾を抱えているような恐怖を、周囲に植え付けた。
それなのに、高校生になると少しずつキレることがなくなり、勝手に落ち着いていき、今では当時の面影もないくらいチャラい。
本人いわく、
『あの頃は真面目すぎた』
のだそうだ。
「奈央―!」
テーブルに着いてお母さんと朝食をとっていると、出かけたはずの兄の声が聞こえた。
「客だぞー」
玄関で叫んでいるらしい翔馬のところへ急いで走っていく。
一方的な発言をスルーできないのは、兄が荒れていた頃の恐怖が無意識に残っているからかもしれない。
「客って、誰?」
こんな朝っぱらからわたしを訪ねてくる人間なんて、知り合いにいたかな。
首をかしげるわたしを見て、靴を履いて立っていた兄はニヤニヤ笑いながら玄関の扉を開けた。
差しこむ朝の光がまぶしい。
目を細めて外の世界を見やり、わたしは固まった。