それでもキミをあきらめない
○。
人のいない空き教室には、逆さにした椅子を積んだ机がところ狭しと運び入れられている。
わずかにあいたスペースで、わたしは椅子に座らされていた。
どこから見ても遊んでる大学生の兄と、すらりと背が高く、小さい顔にショートヘアが似合うボーイッシュな美人の彼女。
「はじめまして奈央ちゃん。あたしは松本キリカ。ちなみに翔馬の女じゃないから」
だしぬけに言われて、ちょっと面食らった。
明るく笑いながら、彼女は背負ったカバンからスプレーやコテやリボンや、その他いろいろな道具を取り出している。
「こいつは唯一、俺の正体を知ってる女な」
机を三つくっつけてその上に寝そべりながら、兄はキリカさんを指差した。