それでもキミをあきらめない



「肌がきれいだから、ファンデなんていらないね」
 

柔らかな筆のようなものが顔をなぞり、キリカさんの指先が直接肌に触れた。
 
彼女の手はあたたかくて、なんとなく心地いい。
 
香水みたいな、甘い香りが漂って、わたしはようやく気づいた。
 

キリカさんは、わたしを変身させようとしている。


「あたしね、将来、美容系の道に進みたいの」
 

パウダーをはたかれ、目元をいじられながら、キリカさんの話に耳を傾けた。
 
彼女の声は少しだけかすれていて、見た目のボーイッシュな雰囲気にすごく合っている。


「でも親を説得できなくてさ、大学だけは卒業してくれって、泣きつかれちゃって」

「キリカの親、きつそうだもんな。大学生なのにバイトも認めねえとか」 

「子離れできてないんだよ」


苦笑を漏らし、彼女はわたしのまぶたにラインをひいていく。


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