幸せにする刺客、幸せになる資格
『ノリさぁ~ん。お待たせしましたぁ~』

向こうから走ってくるのは、女性。
農協に勤めていて時々僕のところにやってくる、山形亜香里(ヤマガタ アカリ)さんだ。

僕と爺ちゃんと婆ちゃんがいた場所まで走ること100メートルくらいだろうか。

『はぁはぁ・・・あの、やっと見つかりましたよ、お爺ちゃんが言っていたハサミと同じもの』

僕が使っていたハサミは爺ちゃんから譲り受けたものだったが、もうすっかり古くなり、切れ味も動きも悪くなっていた。
爺ちゃんは山形さんに同じものを注文したものの、なかなか見つからずにいたものが、やっと手に入ったらしい。

「ありがとうございます。おいくらですか?」
『2100円です』
「分かりました。では申し訳ないですが、次回までに代金は用意しておきますので、今日は品物だけ受け取ってもいいですか?」
『分かりました』

山形さんは僕にハサミを渡したが、その場を立ち去ろうとしない。

『あの、本当は一昨日には手に入っていたんです。でも一昨日は送別会があって、昨日は友達の結婚式があって、なかなかこちらに伺えなくて・・・剪定の時期なのに、申し訳ありません。なので、私にお手伝いさせてもらえませんか?』
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