初恋の絵本





「あれ?部屋の中。案外綺麗だね」




久々に来た彰吾の部屋は、
ホコリが積もってなかった。




「時々、帰ってたからな」

「そうなの?おかしいな。結構来てたのに。なんで会わなかったんだろう」

「お前見かけてもスルーしてたからじゃね」

「ひどーい。なにそれー!」

「俺の気持ちも考えろ」

「彰くーん。ご飯まだー?」

「黙れハル!誰のせいでこうなったと思ってるんだ⁉︎」

「え?俺のせいなの?」

「帰れ!」

「いやいや。ハンバーグ食べるまで帰らないし」

「今すぐ作るから帰れ」




台所に立つ彰吾を、
ハルと二人でリビングで待つ。


こんな感覚、いつぶりだろ?

台所に誰かがいて。

ご飯を作ってもらうの。






「ハル。ハルも料理できる?」

「俺?普通かな?」

「そうなんだ。得意料理とかある?」

「ある!オムレツ!」

「オムレツ?」

「うん。俺の作るオムレツ、めっちゃ美味しいよ」

「ええ!食べたいっ!」

「いいよ。今から作ろうか?」

「……おいハル。こっち来たら殺すからな」

「まだ死にたくないから、今度ね」


台所で包丁を扱っていた彰吾が
ちらりと顔を出した。

何気、包丁を持った手が怖い。






「彰吾さん。ご飯まだですか」

「お前らは俺の姑かよ」

「お腹すいたよ」

「家に帰れ」

「なんで俺だけに帰ればっか言うの?傷つくんだけど」

「お前……あれだけ俺に喧嘩ふっかけておいて、普通にしてる方がどうかしてると思うぞ」

「……そうか。分かった。ごめん、大人しくしてる」

「………」




突然、ハルの顔から笑顔が消えた。

そんな態度に、
私も彰吾も困惑する。



最初は、彰吾をからかってるのかな?
って思ったけど。

なにか違う気がした。









「ハル」

「なに?」

「彰吾のこと嫌いじゃないの?」





今日の朝。

確かにハルは私に言った。






『俺が青山を嫌いなことしってるだろ!』









「嫌いって、今朝言ったよね」

「あはは。俺、素直じゃないから」

「じゃあ好きなの?」

「デレな時は」

「それはそれで気持ち悪いからやめてくれ」

「あ。彰吾」

「飯、できたぞ」

「わーい!美味そう!」

「ほら。ハンバーグ。……と、刺身こんにゃく」

「ありがと、彰吾」

「……はあ」




彰吾が呆れたのかため息を、ついた。








彰吾はなんだかんだ言って
ハルを許してると思う。


だって、嫌いだったら
部屋に、入れないし。

ご飯なんか絶対作らない。




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