初恋の絵本




駅近くのカフェで、
彰吾と二人。時間を潰す。

テレビや友達の話題は聞いてくれるのに
ハルの話になると彰吾は
頑なに口を閉ざした。






お昼も過ぎて夕方間近になった頃。

彰吾がようやく立ち上がった。





「……行くか」

「彰吾……」






行きたくない。

帰りたい。


知るのが怖い。




一歩ずつ踏みしめてあるいていると。



「遅いぞ、心実」





私、彰吾が、いなくなったら。

とっくにこっから逃げ出してた。













大きな門は他者を寄せ付けないような
威圧感があった。

ウチの学校とは全く違う。




「ここが、北校?」


自分の高校以外、
あまり入ったことないから。

見慣れない制服の集団に圧倒される。




由緒正しきセーラー服と学ランを
身にまとった北校の生徒の中。

今風のデザインで、
しかも色々アレンジしてある
私の制服が浮いている。




「……彰吾……帰りたい」

「黙ってそこで見てろ」





背筋をピンとして門の前に立つ彰吾は、
臆することもなく堂々としている。




彰吾の隣。

自分の制服の襟元を掴む。






怖いよ。

知りたくないよ。

会いたくないよ。







でも、会いたい。











人混みの中、どこかに彼がいそうで
わざと目を瞑る。




















「……って、お前さあ。その金髪どうなの?」

「え?似合ってない?」

「てか、チャラい」





見えないのに。

行き交う大勢のなかで。






私の耳は、
聞き覚えのある声を発見した。



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