初恋の絵本
『ハル』の正体
「……僕はハルだよ」
形のいい唇が「ハル」の名前を音にする。
「おい、心実!」
見たもの全てから
背を向けなくなって、
彰吾が止める間もなく
その場から立ち去った。
ハルは。
私のハルは、
私の付き合っていた彼氏のハルは、
私も同じ高校で………
全力疾走で駅に向かい
電車に駆け込む。
あと少し。
あと少しで扉が閉まる時に
彰吾がこちらへ走ってきた。
男の子ってすごいね。
翼があるみたいに、速い。
「心実!」
しばらく見ないうちに。
少年らいしあどけなさが残っていた
彰吾の顔は、
ここ数日で大人びてカッコよくなっていた。
心実!
って、きっと叫んでる彰吾。
動き出した電車の音で
全然聞こえない。
私、会いに行かなきゃ。
自分の目で確かめないと。
電車を降り、西校に着いた時には
もう空が赤く染まっていた。
「もう一度言ってみろ、晴川!」
「先輩だかなんだか知りませんけど、弱い奴は出てって下さい。邪魔なんで」
「………お前!」
「あんたら勝ちたいんだろ?引退するから最後に試合出たい?そんなんで勝てるわけねえんだよ!甘えんなクズ」
「先輩に向かってなんだ、その口の聞き方は!」
「いいか、晴川。勝つだけがスポーツじゃない。チームの信頼と仲間とのコミュニケーションを……」
「ばっかじゃねえの?」
「やめろよ、ハル。先輩達の気持ちも分かってやれよ」
「負け組の気持ちなんて分かるわけねえだろ!翔。お前、自分の方が強いのに試合外されるんだぞ?くだらない感情で負けるなんて俺はヤダ!」
「ハルの言う通りだぜ」
「一緒に負けるとかマジ勘弁〜」
「チームプレーなら強い人と頑張りますんで!」
爆笑した一年生に。
うなだれる三年生。
「ハル、何イラついてんだよ⁉︎」
「うっせーよ!」
よく通る少年らしい声。
「心実」
らしくないメガネに金髪。
見慣れない制服。