初恋の絵本







「………ハル」





私の目の前に、
ハルと彰吾が立っていた。









「……あれは、誰?」







私のハルは目の前にいるのに。


フェンスの向こうにそっくりな
ハルがいる。








「ハル」







咄嗟にハルの制服の袖を掴んだ。


掴んでないと、
いなくなってしまいそうで怖くなる。






茶色い瞳が、
私からの視線を逸らさないでくれる。











「………あそこにいるのは晴川彼方」












「ハルは、……ハルカワカナタじゃないの?」





怖くて。

口に出すのが精一杯。

生きてる名前なのに、
暖かさが感じられない。

数字みたいな感覚。








「………僕は、彼方じゃないんだ」

「………」

「ごめんね」








ぐるぐる思考が回る。

私の付き合っていたのは
ハルカワカナタという名前。




でも、ハルは二人いる。







「ハル」

「うん」

「ハルはハルだよね?」

「そうだよ」

「一緒に海に行った。彰吾とご飯食べた。楽しかった」

「うん。俺もすごく楽しかったよ」






ニコニコ笑うハルは
やっぱり「ハル」だった。









「違うだろ。お前はハルじゃない」





凛とした声が一つ。


視界から、もう一人のハルを
遮断しようとするのを
彰吾は許さなかった。








言わないで。








「心実。コイツはハルじゃない」








…………言わないで。











「晴川彼方になりすました、別人だ」









聞きたくないよ。

嫌だよ。怖い。











「コイツは……晴太……」






晴太。






「………実の兄貴だ…」







兄貴。


この前見つけた二つの母子手帳。




その片方。の……。







何で?どうして?




ここにいるの?

何しに来たの?


なんで?なんで?なんで?



あなたが晴川彼方そっくりなの?




溢れる疑問の渦が巻く。






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