初恋の絵本
「心実!」
隣の教室の前を通った時、
聞き慣れた声が
私の名前を呼んだ。
「………ハル」
「どうした?なんで泣いてるんだ?」
心配そうなその表情は
晴太を思い出させる。
「なんで心実が泣いてるのか、知りたい?」
答えられない私の代わりに、
妃ちゃんがハルに向き合う。
「心実はね、ストーカーに嫌がらせされたの」
「ストーカー⁉︎」
「そう。盗撮されたり、もの盗られたり」
「誰だよ。ストーカーって」
「つかさ、あんた、心実の彼氏なのに何も知らないんだね」
「そんなんで彼氏って言えるの?」
「なんだと⁉︎」
「………行こう。付き合いきれない」
後ろからついてこようとするハルを
教室のドアで遮断する。
琥珀ちゃんが原因って言ったら、
ハルはなんて言うかな?
前みたいに私のこと。
信じてくれないのかな。
今度信じてくれなかったら。
私はハルのこと、
完全にダメになってしまう。
どうしても、晴太に会いたくなって。
晴太は。
お兄ちゃんは。
いつも私を笑顔で会いに来てくれた。
ハルとあなたは別人だから。
今なら分かる。
彰吾の家の前で一人の時。
海に連れて行ってくれた君。
私は学校を抜け出し、
乗り慣れない電車に
乗り込んだ。