初恋の絵本
ずるい。
逃げた。
「なんで無視するの?分からないの?」
「そ、そうだな…恋人がいたことないヤツには分からないかもな」
「でもさ。彰吾は恋人いるのに全然楽しそうじゃないよね」
「……………」
「こないだね。三年間想い続けて告白して、やっと付き合えるようになった女の子と友達になったの。
それこそ、彰吾が言うみたい。毎日毎日幸せそうだよ?
あんな幸せになれるなら、恋愛も悪くないね。
むしろ憧れちゃうね」
嫌なことも許せるくらい幸せ
だと言っていたクラスの女の子
を思い出す。
「だけど、彰吾はあんな表情したこと一度もないし。初めての彼女から今の彼女で何人目だっけ?」
「知るかよ。いちいち数えてねえし」
「分かんない」
彰吾が分からない。
彼女って、
一番好きな子がなるものじゃないの?
二番でも三番でも
好きならなれるものなの?
「彰吾は誰が一番好き?」
テレビだけがうるさい。
嫌な沈黙を感じる。
「なら、お前は誰が一番好きなんだ」
「ルミナス」
「アイドルじゃなくて恋愛的に」
「答えられないから、彼氏がいないんだと思う」
嘘。
本当は脳裏を掠めていた。
灼きついた記憶は
断片的でも離れない。