初恋の絵本
「……私、ハルのお母さんに言いたいことがあるんです」
突然勝手に口が開いていた。
その声に、ビクッと
ハルのお母さんが体を震わす。
晴太も驚いたような顔で
私を見ていた。
「私が小学生の頃。家にずっと嫌がらせの電話してましたよね?」
「……」
「母は昼も夜も働いていましたから。すみません。あなたの声を聞いていたのは、私です。……母に聞かせたくなくて、留守電は片っ端から消してました」
「…………」
「そのうち、かかってくる時間と曜日が分かりました……調度、ハル…彼方くんが帰宅するような時間ですよね」
その間も晴太の足から、
どくどく血が流れていく。
床が、赤く染まっていく。
「……馬鹿なことしてたのね」
「え……」
「知らなかったの?私、何度も通話してたのよ、あなた達のお母さんと。その度に言ってやったわ。早く死ねって」
「……な……」
「でも、死んでくれたんだ……あはは。願いがなかったわ!嬉しい嬉しい嬉しい!」
「あなたって人は……!」
立ち上がろうとした晴太が、
足の傷によろめいた。
「晴太!足、大丈夫?」
「かすり傷だから、大丈夫」
かすり傷のわけないじゃん。
そんなに血が出てるのに。
ケタケタずっと笑ってるハルのお母さん。
この人可笑しい。
焦点が合ってない瞳には
何が写ってるの?
「あー、おかしい!なにが、この子は晴川の子だよ!あの人の子供は彼方だけなのよ!…あなた達は愛人の子。彼方とはちがうのよ。
こんな薄汚い兄弟がいるなんて、
何も知らない彼方が可哀想……!
ああ、可哀想な彼方!」
「………や、やめろ…」
「あんた達なんて生まれて来なきゃ、よかったのに」
そういって、晴太の首に手をかけた
ハルのお母さんの腕にしがみつく。
こんなのって、ない。
ひどすぎる。
おかしい。
どうして同じ母親なのに。
こんな酷いこと出来るの?
「もうやめてっ!」
殴られようが蹴られようが
構わない。
これ以上、晴太を傷つけないで!