初恋の絵本
「いいか。誰にも言うなよ」
「な、んで……」
「理由は分からない。でも、確かな情報だ」
「……嘘……嘘…、だ…」
信じられなくて。
思わず、自分の顔を触った。
傷ついた私の顔。
これをつけた人はもうこの世にいないなんて。
信じられない。
「ねえ。彰吾。なんかの間違いじゃない?私、ハルのに土曜日にあったんだよ」
「……その時、どんな様子だった?」
「どんなって…」
「あいつの母親、うちの金融から多額の借金あるんだよ。こっちの界隈じゃ、アル中のパチンコ女で有名だった。…
……普通じゃなかっただろ?」
ハルのお母さんの、アルコール臭さと。
濁っている目を思い出した。
やだ、怖い。
「おい、心実。お前その顔の傷。どうした?」
「……あ」
「……化粧で隠してたのかよ。ちょっと見せてみろっ!」
「や!」
無理矢理、彰吾に顔を上に向かされる。
「ひでえな。病院行ったか?」
「……行ってない。平気だよ。このくらい」
「バカ!女の顔に傷が残ったら大変だろ!今すぐ病院に行け」
「……いいよ。傷なんか残っても…」
「よくねえよ!あーあー。傷の上から化粧しやがって。治るもんも治んねえぞ」
「別に…治らなくったって……」
「怒るぞ」
本当に怒ったような顔をした彰吾。
でも、優しい仕草で。
私の傷にそっと触れた。
「誰に殴られた?」
「どうして分かるの?」
「慣れだ、慣れ。相手、女だな。指輪の跡がある」
「……ハルの……」
「あ?」
「ハルのお母さん…。……晴太に酷いことしてたから。止めに入ったら、殴られて……」
「………辛かったな」
そう言われた瞬間。
何かが壊れて、涙が溢れてきた。
縋ってないと立っていられなくて、
彰吾に抱きついた。
そんな私にビックリしつつも、
優しく抱き締め返してくれる彰吾に。
ちょっぴり安心する。
「ハルのお母さんのこと、酷い人だし最低だなって思ったけど……でも、……
死んじゃうなんて……」
私、母親じゃないから、
気持ちが分かんない。
けど。
あんな残酷になってしまうのかな?
「…心実!お前、午後の授業サボれ。病院行くぞ」
「傷なら、平気だって……」
「バカ。怪我を甘くみるな!……病院ついでに、晴川の所に行くぞ」
「ハルのとこに……?」
「ああ。ハルがどうなろうが知らんが、晴太が心配だ」
「彰吾……どうして、晴太のことそんなに気にかけてくれるの?」
「知らねーよ!なんか……ほっとけなくって」
人に執着しない執着らしくない。
きっと彰吾は優しいから。
優しすぎるから、好きになりすぎて。
その人に対して全力になり過ぎてしまうから。
ねえ。晴太。
晴太のこと好きな人、
沢山いるよ。
みんながあなたを探してるよ。
………晴太。
今、どこにいるの?