初恋の絵本
「ごめん、分かんないや……」
「…そっか……そうだよな……」
言え、ないよね。
自殺しました だなんて。
「怪我、どうしてなったの?」
「………」
「無理に話さなくてもいいけど……」
布団の上から、
ハルが自分の太ももを撫でた。
「土曜の夜。急に親が離婚することになったんだ。そしたら、母さん荒れて……
そりゃ、荒れるよな。愛人の子供連れて来たら」
「ハル、その子と会った?」
「会ったつうか、見た。父さんも父さんだよ、子供作ってたなんて。しかも同じ年だなんて……ありえねえ。浮気されてた母さんかわいそうだし」
……それ、晴太のことだ。
晴太はハルに会ったんだ。
「俺の怪我の原因は親父とあの野郎だ。……畜生!サッカー出来ないなんて死んだと同じだよ!俺じゃなくて、アイツが死ねばよかったのに!あー、マジ死なねえかなあ。他人の家庭崩すなんて最低だろ、死ねばいいのに」
「……ハル。足の怪我……、そんなに酷いの?もう、歩けないとか?」
「あ?歩けるけど?」
「……え?」
「歩けるし、走れるし。でも、サッカーだけができない」
「じゃあ、よかってじゃない」
「はあ?よくねえよ!!」
なんでだろう。
確かに、サッカーが、できなくなったハルが気の毒だとは思う。
けど、かわいそうだとは思わない。
私ってこんな冷たい人間?
ううん。許せないんだ。
晴太のことを悪く言ったハルを。
「……ねえ。ハルってすごく人を傷つけること言うよね。言われた側の気持ち、考えたこと、ある?」
「ああ?いきなりなんだよ」
ハルの表情がまた不機嫌になる。
「言葉は元には戻せないんだよ。取り返しがつかないこともあるの。言葉って、思ってる以上に怖いよ」
「なんで説教されなきゃなんねえんだよ!!」
こうなったら、言おうかな。
別れるんだし。
「ハルのお父さんの愛人の子供」
「は?」
「一人じゃないよ」
「は?意味わかんねえよ⁉︎なんで心実が知ってんだよ!!」
「だって……、もう一人……私だもん」
「…え?」
今だ。ハルが混乱してるウチに、
言いたいこと、言わないと。
「私、ハルの妹なの。だから、ハルの彼女やめる」
「は?」
「別れよう」
「……なんでだよ。普通、彼氏がこんな状態でそんなこと言うか?」
「もう、あなたの傍にはいられないの。ごめんなさい」
「ああそうかよ!勝手にしろ。どうせサッカーが出来なくなったの知って別れたくなったんだろ⁉︎」
「違うよ!」
「違わない!そうだよな。お前ずっと試合見に来てたよな」
「それは……」
「サッカー出来なきゃ必要ないってことかよ。………最低だな。くそ!お前なんて好きになるんじゃなかった!」
ハルが再びグラスを投げる仕草をする。
別にグラスを投げつけられようが
気にしない。
怪我したっていい。
でも
ハルを見てたくなかった。
だって、晴太を連想させる。
ハルのお母さんを連想させるから。
ハル。
自分は不幸だと思ってもいい。
けど、人のせいにするのは間違ってる。
「だったら、それでも、いいよ」
そうだね。私、サッカーしてる
君に夢中だったよ。
すごくイキイキして明るくて
綺麗だった。
でも、今の君は全然綺麗じゃない。
自分の都合のいいように、
自分だけ傷つかないようにしている。
君は卑怯だよ。ハル。
「さよなら」