初恋の絵本
「……ごっそさん」
「ダメ。今日はこれ食べて。今月あと三千円で乗り切らなきゃいけないから」
「無理だって!無理無理‼︎」
「無理じゃない。全部食べれるもので出来てるから大丈夫!」
「ならお前が食ってみろ」
「いいよ」
カレーをぱくりと一口食べる。
「……用事を思い出したので帰ります」
「お前!」
「鍋いっぱい作ったので、しばらくご飯作らなくてよくなりました……」
「よくねえええええええ‼︎おいこれまじで不味いぞ!」
「後はよろしく」
「この野郎‼︎」
スキヤキにカレーは合わない。
心のレシピに刻みつけておこう。
「で。何があった」
「はい?」
「お前が不機嫌な理由だよ。絶対、なんかあっただろ」
「あー」
彰吾にはなんでもお見通しらしい。
「ハルがね。大人気だったの」
「話の脈絡が分からん」
「だから。初恋のハルかもしれい男の子が人気者で、落ち込んでたの」
「かもしれないってなんだよ」
「もしかしたら、別人かもしれないから」
「本人である確信は?」
「ないよ」
「ないのに俺をこんな目に合わせたのかよ!」
「気分転換に新しいレシピを開拓しようと思って」
「……うわあ。殴りてえ」
そっと自分のカレー皿を、
さり気なく彰吾の前に押しやった。
「俺にカレーを押し付けんな」
「だってお腹いっぱいなんだもん。これって恋かなあ」
「違うだろ。カレー食べたくないだけだろ」
「ううん。なんかさ。ハルって男子が出てるサッカーの試合を見にいったんだけど、気になっちゃって……」