初恋の絵本


私の目の前には、

「ハル」が立っていた。



「!」



頬張っていたアンパンを
噴き出しそうになる。



「え⁉︎」

「あ。あの……」

「……、…」

「………」



何が言いたいのか、
ハルは私を見てしどろもどろになっていた。



「あの……」

「……」

「……えとね。その、…俺の試合、見に来てくれるよね」

「は、はい……」



知っていたんだ。

いつもたくさんのギャラリーがいるのに。

私が見てたこと、
なんで知ってるんだろう。



「なんで?サッカー、好き。とか?」

「え………と、特には…」



不思議だ。

遠くから見ていたハルは、
近くにいない存在だと思っていた。

ルミナスみたいな。

家の中では見ることができるけど、
会うことはない身近な他人。



「じゃあ。なんで試合、見に来てくれるの?」

「あ………その……興味があって…………」



至近距離で見るハルは、綺麗だった。

生き生きとしていて、
生命力が漲っている。

ハルは夜桜みたいだと思っていたけれど、違った。

どちらかと言うと、葉桜だ。



「なんの興味?サッカー?」

「………」



サッカーじゃない。

ハルに興味があった。

でも、本当のことを言えるワケがない。



「え、あ。……えと、……」

混乱してて上手く言葉にできない。



もうダメ。

私、どうしていいか分からない。



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